zuwaigani3のブログ

個人の感想文です。ひとり読書会。

しんせかい

表紙をみて、こういうの、あんまり好きじゃないなあと思って、書き出しを読んで、ああやっぱりこういうの好きじゃない、狙っている感じが、と思ったのだけど、【谷】に入ったあたりから、ぐんぐん面白くなってきて、それはなぜなのかというと、このわざとらしい書体は素なのだ、この人、素なんだ、素で阿呆なんだ、ということがわかってきたからで、私はインパクトのある作品に出会うとどうにも文体を真似てしまう。
途中で、ヤマシタスミトという名前が出てきて、あれ、どこかで見たような、と表紙に戻ると作者の名前が山下澄人で、え、作者と同じ名前なの、どういうこと、と思いながら、北の国からのテーマソングが頭に流れ込んできて、この先生ってあれだよなあ、きっとあの人だよなあ、え、これ実話?実話ベースなの?と驚きながら読み進めた。
文章は幼いのだけれど、それでいて眼光鋭いところが好きだった。ときおり混じるエピソードの、西の人らしい滑稽さも良かった。一気に読みきって、これはほんとうに面白かった、食わず嫌いをしないで良かった、と心底思った。

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追記)
あとからこの小説をiPhoneのメモアプリだけで書いたというのを知って衝撃。ケータイ小説というレベルでなく、手のひらから作品が生まれる時代なんだなあ。

[漫画] とりかえ・ばや1-11

1巻から11巻まで一気に読んでしまった。
絵柄が好みではなかったのだけど、試しに読んでみたらめちゃくちゃ面白かった。
この絵、どこかでみたことあるなあと思ったら、藤本ひとみ先生のなんとかシリーズの挿絵の人だ。20年以上も前だったと思うのだけど、あれからなおも現役で、こんなに面白い漫画を描けるなんてすごい。
少女チックな絵はあまり好きではなかったのに、だんだんと引き込まれて気にならなくなった。書き込みが丹念で美麗であるし、親族の系統を意識した顔のかき分けがうまい。少女漫画的要素を残したまま人物を書き分けるのって、相当すごいと思う。
宮廷もの自体好きなんだけど、雅な言葉遣いや、乙女な展開にどきどきしてしまう。主人公はかつて子を授かっておきながら、帝とは純愛なんだよねえ、それも良い。絶対ハマらないジャンルと思い込んでいたのだけど、いや、見事にハマった。11巻で終わりだと思ったら、まだ続刊していた。次を早く読みたい。

パークライフ

読み返し。当時、芥川賞受賞をきっかけに読んだのだけど、そういう理由で読んだ本のなかではけっこう気に入っていて、もう一度読んでみた。
芥川賞受賞、それはかれこれ15年前で、その書評のなかに、「スターバックス」が作中に出てくるのは是か否か、というものがあったのをうろ覚えている。まずこういったチェーンの固有名詞を出さないのが純文学だったのだ、その時代は。その後の芥川のラインナップを見ても、いまではどうってことないことなのに、当時は議論になっていたというのが興味深い。

パークライフは、とにかく読みやすい、その文体が好きである。文体は読みやすくすっきりあって欲しい。全編に抽象画は要らない。と私は考えている。
そして、オチのまったくないストーリーで、こういうところが純文学ぽいな、とその頃の自分は思った。純文学にはオチをつけてはならない。なんとなく。明確なエンディングがなく、物語を切り取ったような一片が純文学である。なんとなくそう思う。
最近知ったのだが、この作品には「なにもおこらない小説」という天才的なコピーが読み人知らずでつけられていた。そのフレーズを聞いて、たしかに何も起こらなかったな、いや、見逃していたのかな、とだんだんに気になってきて、再読するに至った。(続く

働くママの時間なんとか本

読み返し。
それこそ時短のために、チェック表でチェックして弱いところだけ読んだのだけど、やっぱりこの本は良い。こんまり本にも通じるところがあり、書類は全捨て、気に入らないプレゼントはお礼を込めて全捨て。こんまり本よりもずっと前に刊行されているのでパクリではない。外注をためらうな、書類は全捨て、そうはいっても気が咎める人はこうしてください、のような具体的なTIPSが多くてたいへん良い。

自分のダメなところをリストアップすると、持ち物系にたどり着くのでそろそろ片付け祭りか...と思いをはせた。片付けは好きだけど、集中して自分だけの時間を取る、というのがなかなかできない。しかしそんな泣きごとも、この本のポリシーでいくと、ええ、そんなあなたもだいじょうぶです、さっさとベビーシッター雇いましょう、さあシッター会社にコンタクトして、まずは一歩を踏み出しましょう、とかなんとか指南されそう。

私がダメなところメモ

計画 △夜のうちに明日の準備をしておく
優先順位 △ボランティア活動を長く続ける△こどものおけいこは手に余らない範囲にとどめる
意識 だいたい○
効率 だいたい○
持ち物 とくにだめ×
管理 とくにだめ×
家事 △単純な用事をヘルパーに頼んでいる
遊び △毎年長期のバケーションにでかける

海の見える理髪店

なにかの賞を受賞してタイトルを知ったので読んだ。文章が若い感じがして芥川賞だったかなと思ってたら、直木賞だった。中堅の作家さんにしては言葉遣いが軽くて、あれ?女性なのかなと思ったら男性で、あれあれ?と思っていたら、コピーライター出身の方だった。そのせいかやたらと短文や体言止めが多い。セリフ以外に口語も多い。そういう文体は正直あまり好みではなく、年を取ったせいか最近は読んでいると疲れる。
表題作の海の見える理髪店もずいぶん読みづらかったのだが、結婚式なんです、というところで込み上げてきて、おおすごいな、面白いな、と思った。店主がどこで気づいたのかな、とか、最初に厳しい印象があったのは、過去を掘り当てた人間ではないかと訝っていたのではないかな、とか想像するに楽しい。私は、こどもを設けた、のところで気がついたけど。
読み返したいな、と思いつつ、けれどなんとなく文章が疲れるので読み返さないで終わった。その他のタイトルでは、

いつか来た道 →読みづらかった、話自体は好き
遠くから来た手紙 →読みづらかった
空は今日もスカイ →読みづらかった
時のない時計 →これがいちばん良かった
成人式 →前半が良かった

とくに夫婦のやりとりのエピソードはリアルだし、少し謎解きの要素があるのも良いし、感情が盛り上がるシーンもあるし、話そのものはけっこう面白いのだけど、なんかもっと面白くなりそうなのに、と毎回思う。これは何なんだろう、話の面白さ、それに表現力が追いついていない印象を受ける。例えていえば、ストーリー作りは上手くて絵は下手な漫画家みたいな感じで、きっと原作と作画(作文?)をわければすごく面白い。その解のひとつがドラマ化映画化なんだろう。
音楽は編曲したり、録り直したりするけれど、そういうふうに、何年かしてからもう一度作者がリライトしたものを読んでみたい。
この本に限らず、小説のセルフカバーって、あったらめちゃくちゃ良いなあと思う。文筆家はそういうのめちゃくちゃ嫌がりそうだけど。