zuwaigani3のブログ

個人の感想文です。ひとり読書会。

竜とそばかすの姫

えっそこでおしまい?

竜そばを見た最初の感想はこれ。エンディングロールでふたりのその後についてヒントになるカットくらい出るだろうと凝視してたが何もなく。肩透かしのまま終幕。

竜は誰か。その謎解き要素があるせいで、あれこれ自論で予想を始めてしまった、それが良くなかった。素直に見れば良かった。せめて竜はこの中にいる、という絞り込みだけでも展開のなかにあれば見てる側として助かる。着想と観客の橋渡しする脚本家をぜひ入れてほしい。

(以下、ネタバレあり)

 

 

 

 

 

 

竜はすずの父親かしのぶくんだと考えていた。きっと竜は母の死に関連のある男。開幕10分以内に出てきた男。映画的に。まずはしのぶくん説。川で助けた子どもをあの川中に置き去りにしたのは幼い頃のしのぶくんだった…!みたいな!良心の呵責、重い十字架みたいな。しかし竜がBelleのキスを避けたとき、これは父親でファイナルアンサーではないかと絞り込んだ。しのぶくんだったらきっとそのまま口付けを交わすだろう。竜はBelleの正体に気づいている。だから口付けはできなかった。親子なので。そして天使はダイニングに飾られた母親の写真からコピーした、この世に存在しない者の投影なのである。DNAは片見分けの何かでスキャンしたのだろう、などと考えていた。映画的に。

ところが予想はまったく外れて、竜の正体は高知の人間ではなかった。大外れだ。メインキャストのなかに竜がいないとおさまりつかないだろうと思うのだが、細田脚本に予定調和という文字はない。

 

そして、竜の叫び。助ける?の連呼。

女子高生がひとり電車へ飛び乗り東京に向かう。合唱隊のおばさんが駅まで送るって言ってたけど、駅までなの?なぜいっしょに行かないの?川崎まで行ってどこかで待機してれば良いのでは。そのことに疑問符が止まらなかったが、なんとか夜行でたどり着くすず。私の心配をよそに行き着いた先ですずは運良く現実の竜と再会を果たす。

Uはとても狭い現実世界の写し鏡だった。これは十分にあり得ることで、生体情報の近い人間同士だとAsが呼応してしまうのだろう。ジャスティンは自分が切り付けた血の跡で、そばかす強調メイクのBelleを思い出したのだろうか。そして互いに相手が誰だかを知る。

お前をアンベイル(Unveil)してやろうか?そう言っていた奴がいちばんアンベイルを恐れていた、それはとてもよくあることだ。男の後退りはすずの目力で退散したわけではなく傷害罪に怯えたわけでもなく、知っているぞ、見透かされているぞというアンベイルの恐怖。一時はスポンサーもつき陶酔と自己実現の場であったUと現実世界がリンクすることに恐れ慄く、匿名性のなかでしか生きられない男、大人なのに。

 

さて、すずはどっちとくっついたの、という問いなのだけど、伏線となるのは合唱隊メンバーの思い出話である。留学先で恋をした、付き合わなかった、相手は中学生だったの。

竜と姫。恋は恋として物語は完結したのだと思う。時をかける少女でもこれに近いことが言及されていてたしか「未来で待ってる、走っていく、なんて言っておいて、真琴はあっさり別の人と結婚してそうだけど」のようなコメントだった。

すずは目の前の現実的な相手、しのぶくんと等身大のお付き合いをするだろう。学校のヒーローなんて卒業すれば意外となんでもないものである。世の歌姫になったすずに本気出すしのぶくん、これからのしのぶくんを見てみたい。とにかくしのぶくんがかっこ良かった。

 

その他の反芻。

- Suzuがなぜ名前をBellにしたのか分からなかったけど英語で鈴、なるほど。見終わったあとに気づいた。ここでちりりんと鈴でもひとつ鳴らしてほしい、ベタだけど。風鈴でもいい。そう、ベタが足りないのである。

- 美女と野獣モチーフもダンスするまで気がつかなかった。バラもあったのに。フランス語でBelleのあたりで、へー美女と野獣のベルと同じだなと思ったけどなぜか気づかなかった。視聴者は意外と鈍いのである。

- Belleの正体、みんな「知ってた」とこが良かった。(追記) 単純にこのシーンをギャグとして笑っていたのだけど、あとから気づいて膝ぽんだった。

「Uはこの世の知性を司る5人の賢者「Voices」によって創造された究極の仮想世界。」

5人の賢者、これ合唱隊メンバーだった。キャストの紹介のサイト見たときに医者やら学者とかやけに専門職が揃ってるなと思っていたが、見返すとリーダー漁師、医者、学者、酒屋、農家。ああ、だからみんな知っていたのである。ふたつの舞台は最初から高知だったのである。だから鯨がスピーカーを積んでいる。あの鯨こそ、すずの母親の化身なのかもしれない。

- 中村佳穂さんの歌がほんとうに良い。最初から涙でちゃった。すずに当てたぎこちない声がどんどんこなれていくのも良い。

- Belleの歌声をはじめに気づいてくれたのは天使くんだった。天使が聞いていたということは竜も最初から聞いていたのである。二人は最初の最初から出会っていた。恐らくは天使がBelleの歌を聴きたいというので連れて行こうとし城から抜け出たところをジャスティスに見つかったのだろう。

- 歌え!歌え!のところが怖い。

- るかちゃんと話してるとき、すずが何度か「死んだ」っていうのが良かった。るかちゃんは明るく透き通っていて、すずの母親の事故を知らない。るかの前でならすずは「死んだ」って冗談で言える。

- 現実世界は美女と野獣が逆。田舎の内気な女子高生と裕福な都会のイケメン。川崎が都会かはおいておく。どちらも川がある。国体カヌーくんも、鯨も。全編に水が流れている。水は必ずひとつになる。必ずつながる。ネット世界との呼応である。

- 世界を救う目的は意外と自分に近いことである。他人から見ればなんでもない、世界のニュースとしては次の日には掻き消されていくような、なんでもないそして個人には重大な事件である。でもそれを映画の主目的にしたのは細田監督らしさがある。

細田監督は子どものテーマが入ってくると迷走する。見せたいテーマやモチーフがまずあってそのために映画が存在するのだろう。

 

 

追記)

filamarksにも、もっとすっきりした感じで書いた。突っ込みどころ多くて考察をあれこれ書きたくなってしまうあたり細田監督はすごい。

https://filmarks.com/movies/94514/reviews/115454948

 

追記)

- トレーラーで出てたからオープンかと思うけど「ほんとのこと言えずにごめん」ってなんだろう。

好きだよ、かな?ふつうは好きだといって恋が始まるのに、好きだといって、そして相手がそれを受け止めて、さわやかに恋が終わる。

 

2回目

https://zuwaigani3.hatenablog.com/entry/2021/07/29/052110