zuwaigani3のブログ

個人の感想文です。ひとり読書会。

パークライフ

読み返し。当時、芥川賞受賞をきっかけに読んだのだけど、そういう理由で読んだ本のなかではけっこう気に入っていて、もう一度読んでみた。
芥川賞受賞、それはかれこれ15年前で、その書評のなかに、「スターバックス」が作中に出てくるのは是か否か、というものがあったのをうろ覚えている。まずこういったチェーンの固有名詞を出さないのが純文学だったのだ、その時代は。その後の芥川のラインナップを見ても、いまではどうってことないことなのに、当時は議論になっていたというのが興味深い。

パークライフは、とにかく読みやすい、その文体が好きである。文体は読みやすくすっきりあって欲しい。全編に抽象画は要らない。と私は考えている。
そして、オチのまったくないストーリーで、こういうところが純文学ぽいな、とその頃の自分は思った。純文学にはオチをつけてはならない。なんとなく。明確なエンディングがなく、物語を切り取ったような一片が純文学である。なんとなくそう思う。
最近知ったのだが、この作品には「なにもおこらない小説」という天才的なコピーが読み人知らずでつけられていた。そのフレーズを聞いて、たしかに何も起こらなかったな、いや、見逃していたのかな、とだんだんに気になってきて、再読するに至った。(続く

働くママの時間なんとか本

読み返し。
それこそ時短のために、チェック表でチェックして弱いところだけ読んだのだけど、やっぱりこの本は良い。こんまり本にも通じるところがあり、書類は全捨て、気に入らないプレゼントはお礼を込めて全捨て。こんまり本よりもずっと前に刊行されているのでパクリではない。外注をためらうな、書類は全捨て、そうはいっても気が咎める人はこうしてください、のような具体的なTIPSが多くてたいへん良い。

自分のダメなところをリストアップすると、持ち物系にたどり着くのでそろそろ片付け祭りか...と思いをはせた。片付けは好きだけど、集中して自分だけの時間を取る、というのがなかなかできない。しかしそんな泣きごとも、この本のポリシーでいくと、ええ、そんなあなたもだいじょうぶです、さっさとベビーシッター雇いましょう、さあシッター会社にコンタクトして、まずは一歩を踏み出しましょう、とかなんとか指南されそう。

私がダメなところメモ

計画 △夜のうちに明日の準備をしておく
優先順位 △ボランティア活動を長く続ける△こどものおけいこは手に余らない範囲にとどめる
意識 だいたい○
効率 だいたい○
持ち物 とくにだめ×
管理 とくにだめ×
家事 △単純な用事をヘルパーに頼んでいる
遊び △毎年長期のバケーションにでかける

海の見える理髪店

なにかの賞を受賞してタイトルを知ったので読んだ。文章が若い感じがして芥川賞だったかなと思ってたら、直木賞だった。中堅の作家さんにしては言葉遣いが軽くて、あれ?女性なのかなと思ったら男性で、あれあれ?と思っていたら、コピーライター出身の方だった。そのせいかやたらと短文や体言止めが多い。セリフ以外に口語も多い。そういう文体は正直あまり好みではなく、年を取ったせいか最近は読んでいると疲れる。
表題作の海の見える理髪店もずいぶん読みづらかったのだが、結婚式なんです、というところで込み上げてきて、おおすごいな、面白いな、と思った。店主がどこで気づいたのかな、とか、最初に厳しい印象があったのは、過去を掘り当てた人間ではないかと訝っていたのではないかな、とか想像するに楽しい。私は、こどもを設けた、のところで気がついたけど。
読み返したいな、と思いつつ、けれどなんとなく文章が疲れるので読み返さないで終わった。その他のタイトルでは、

いつか来た道 →読みづらかった、話自体は好き
遠くから来た手紙 →読みづらかった
空は今日もスカイ →読みづらかった
時のない時計 →これがいちばん良かった
成人式 →前半が良かった

とくに夫婦のやりとりのエピソードはリアルだし、少し謎解きの要素があるのも良いし、感情が盛り上がるシーンもあるし、話そのものはけっこう面白いのだけど、なんかもっと面白くなりそうなのに、と毎回思う。これは何なんだろう、話の面白さ、それに表現力が追いついていない印象を受ける。例えていえば、ストーリー作りは上手くて絵は下手な漫画家みたいな感じで、きっと原作と作画(作文?)をわければすごく面白い。その解のひとつがドラマ化映画化なんだろう。
音楽は編曲したり、録り直したりするけれど、そういうふうに、何年かしてからもう一度作者がリライトしたものを読んでみたい。
この本に限らず、小説のセルフカバーって、あったらめちゃくちゃ良いなあと思う。文筆家はそういうのめちゃくちゃ嫌がりそうだけど。

大合格

アメトークで宣伝されてて、その回がめちゃくちゃ面白かったので買った。でもテキストで読んだらイマイチだった。あの語り口調は動画だから面白いのであって、そのまま本にしてもつまらない。

新書で出るのかと思ったら、単なる新書をパクった装丁、しかも他社の、おそらく岩波の、というお粗末さ。とにかくタイトル+表紙と中身が全く合っていない。副題そのままじゃ客層が広がらないのであえて狙ったのだろうけど、中身がペラペラなのでそのギャップが全く面白く響かない。本文にしたって、最後の相談回答内で、唐突に大合格というワードが出てくる。大合格という題名ありきで、釣った感じ。
中身も高校生向けなので表現がかなりペラい。

著者のコンテンツそのものをディスっているわけではなくて、この路線で行くなら大人向けにリアレンジして出して欲しかったし、内容が中高生向けならそれらしく装って欲しい、プロデュース面のちぐはぐを解消して店頭に出して、買う側を惑わせないで、という要望。

大学と学部どちらを取るか、
文化祭準備で総スカンに合った話、
あたりはとても良いな、と思った。でも話し言葉じゃなくて、ちゃんとした文章でまとめて欲しかった。口語調でやるなら、書籍じゃなくて、オーディオブックなどで出して欲しい。

今日は会社休みます 13 (完結)

13巻が届いた、これが最終巻らしい。
表紙がカジュアルウエディングふうの衣装で可愛い。最初は変な設定のマンガだな...と思いつつ、最終巻まで付き合った。

13巻のお話自体は卒なく中身もなく、結婚までの日常を綴っているだけでたいして面白くない。朝尾派なので、朝尾さんの番外編も欲しかったけど、そういうのもなかった。

全体的に内容のペラペラ加減にエッこれだけ?これでおしまい?と肩透かしだが、長期連載の総まとめとして、お布施巻でもまあいいか。

結婚式直前に、田之倉(兄)が突然でてきたのが失笑。花笑すら知らなかった兄。結婚式の準備してれば、席次表で気づきそうなものだが。この唐突な入れ込み具合からして、田之倉兄による「今日は会社休みます。」スピンオフか第2章狙ってませんか...
あと、「今日は会社休みます」という台詞でラストを締めたいがための、休暇届け忘れと、新婚旅行なし設定。新婚旅行へ行かせてあげてください。あ、新卒の田之倉君に有給ないのか...

異類婚姻譚

芥川賞受賞

異類婚姻譚本谷有希子

タイトルと著者名だけでもう好きになっていた、これは受賞してしかるべきだと。そう安堵して読んでいなかった、なのになぜか読んだつもりになっていた一冊。でも読んでみたら意外と今ひとつだった。あれ。
本谷さんは映画「腑抜けども、」をきっかけに知り、奇譚ものも好きなので期待していたのだが、肩透かし。

最近芥川賞本をなぞって読んでいて、火花あたりから、どうも選書の傾向が変わったように思う。芥川賞って、娯楽やファンタジー要素を嫌うイメージがあったのに、笑いも高度な文学である、という位置づけなのだろうか。異類婚姻譚はファンタジーも娯楽もあるので特に違和を感じる。
これが受賞するなら、乙一の別名義あたりが受賞しても良いのではと思うのである。

(以下結末に触れています)




異類婚姻譚がファンタジーに見えてしまうのは、現実とファンタジー部分の切り替えが唐突で、繋がっていないからだろう。
まず異類婚姻譚というタイトルから幻想的なイメージを持ち、しかし出だしはかなり現実味のある叙述で、ああ「異類」「譚」というのは比喩的表現で日常のおはなしなのかと思う。そう思わせたのちに、後半いきなり話が飛翔していく設計なので、そりゃないでしょう、となる。夢オチよりもひどい。
むしろ単行本に同載されている「藁の夫」のほうがまだ文学的には洗練されているように思う。夫の中身が楽器以外のものだったらなお良し。しかしこの楽器っていうのも根っこのないアイデアで、なぜ唐突に楽器?と思うのだ。どうにも小道具がイメージ画像ぽくて、俳句をはじめたばっかりのひとの五七五みたいなんである。

「犬たち」「トモ子のバウムクーヘン」に至っては、中ニ病ですか...と訊きたくなるお話で、本谷さんってこんな感じだったっけ...と戸惑うのである。「トモ子とバウムクーヘン」は出展をみると早稲田文学01とあったので、ああやっぱりそっち系かと納得する。
あとになって芥川選者の「自意識が過ぎる」だったかの評を見て、言い得てる、私もそれを言いたかったんです、と共感した。

居心地の悪い結末を除けば、そこに到達するまではすごく面白い小説だなと思って読んだ。とくに旦那氏とサンちゃんなど人物の描き出しはすごく良いなあと思う。リアル。
ドッグランのガラスのあたりとか、状況描写が説明不足だなあと思うのだが、戯曲世界の人だからかもしれない。

私はオチが消化できず、これは比喩表現で、サンちゃんが旦那氏を殺して埋めた横に、ちょうど旦那氏が殺して埋めた元妻が竜胆として咲いていたのだと曲解していた。
本当によくわからないので二周読んだ後、まあ字面のまま、人が花に変身したんだ、と考えるのが妥当という結論に至ったのだが、それにしたら本当にチープなオチだなと思う。
純文学自体がオチなしで不安定を残したまま、その後の選択を読者に委ねるような面があるので、しっかりオチをつける、それで受賞することが反骨といえばそうかもしれない。

メモ

  • アライ夫妻は、石のかわりに「サンショ」を間に置いたのだよね、だからサンショが狂った、そして海外での置かない選択に戻る
  • 旦那が名前を持たず、最後まで旦那氏だったのと、サンちゃんというあだ名、サンなんとかっていう女性名ないでしょう、夫やご近所さんにまで呼ばれるあだ名の出どころはどこだろう、気になった
  • 旦那を元妻のところへ返した、その比喩表現という解釈を見て、ああなるほど、そうかもしれない、その見解は素晴らしいと思った。私は殺しありきで考えていたから

追記

  • 蛇ボールがよく賞賛されているのだけれど、小さい頃から知っている、ものぐさ蛇という昔話があって、まさに蛇ボールのストーリーであり、一般的にはものぐさ蛇って有名じゃないんだ、というのを知った

コンビニ人間

面白かった。
まず、出だしが良い。数ページ引き込まれる。途中、ひねりのない会話が続いて肩透かしを食うのだが、その抑揚のない意味のなさそうな会話もちゃんとシークエンスになっていて、あ、やられた!と思う。最初は表現が稚拙なのだが、それすらも接点を持つ人間たちのコピーなのである。作者の本来の力量が相当高いことは、のちに登場する人物らの巧みな綴り分けからうかがえる。

主人公はおそらく発達障害なのだろうけど、その思考回路の描写もみごとだし、バーベキューでの会話、白羽の言動のすべて、よく炙り出しているなあと思う。

周囲の人間の喋り方が混ざっていく、
結婚も就職もしていない者は、異物とみなされ排除される、
白羽の台詞のすべて、
とくにこれらの表現が良い。

記憶を重ねあわせるような技法も素晴らしかった。甥っ子を見てナイフを見留めたときに幼少の超合理的な行動が思い出されたり、最後に恵子がスーツ姿でコンビニの棚を直してたときに冒頭の店員ぶるおじさんのことが思い出されたり、文字にせずとも想起される。
この文字にないが勝手に想像して補完する、のがまさに普通人間の行動なのだろう。恵子は淡々と生活しているのに、読者が先を考え心配をし、はらはら、やきもき読み進めるのだ。

恵子からみた世の合理と不合理を見るうちに、「定型発達という発達障害」の話を思い出す。現代は定型発達、人生の定性を求められる。空気を読み、共感性をはぐくみ、仕事か子育てに邁進しなければならない。その社会性と同調性は進化論として果たして正しいのか。白羽の縄文時代ではないけれど、もっとプリミティブな時代や土地に生きていたなら、きっと恵子のほうが子孫を残すべき優生対象になろう。

第155回芥川賞受賞作。受賞のニュースをみて購入したものの、ながらく積読していた。もっと早く読めば良かった、良作だった。