蜜蜂と遠雷
青春を、天才を、とてもドラマティックに、そしてリアルに反すうさせてもらった。天才児ネタの物語はどうしても背伸びの要素が出るので白けてしまうが本書はちがう。静岡のコンクールを本当によくお調べになったのだろう、それがきっとふわふわしがちな天才児ネタを地に足つけたものにしている。
コンクール結果も、さすがの選択というか、とても納得する終わり方で、ベストエンドと言いたい。
近似の題材はコミックであれば、ピアノの森や神童が好きなのだけど、鉛筆ひとつで音楽を語る、奏でる、というのはいかにも情緒深い。私の想像している音は、他の人と同じではない。活字を追いながらそれぞれの脳内でそれぞれが思う神曲を回している、少ない情報量から生まれる分岐の豊かさが、テキストメディアの醍醐味だと思った。